Driving impression of my 500E

エンジンがクローズアップされがちな500Eだがボディとサスペンションも秀逸だ

パワー・トルク‥カタログ上、5リッターV8・330ps・50kgmという数字でありながら、500Eのパワーはトップエンドまで回してもどこか理性的に抑えたようなところがあり、精神的昂揚をそれほど伝えない。これは二面性があって、ロングドライブではこのお陰(と足まわりのセッティング)でかなり疲れが少ないが、思わず叫びたくなるほど気分が盛り上がるといったようなことも無い。エンジンパワーは経年変化でダウンするし、点火系統やスロットルバルブアクチュエーターなど各部の劣化がそれに拍車を駆ける。500E発売当初から現在までの自動車雑誌のインプレではいずれも相当高く評価されているが、これに匹敵するフィーリングを得たいならこれらパーツを交換する方がいい。1速発進してもガツンと蹴飛ばされるような加速ではなく、「巨人の手のひらに押されるように」息の長い加速が続く。エンジンが遮音材で囲まれていることもあり(車外に発生する熱は凄いが)室内に進入するエンジン音はかなり抑制されている。マフラーも静寂そのものでロングドライブでは快適である。

駆動系‥ATは4速が1:1。2速でレブリミットまで引っ張ると3速にシフトアップした瞬間最大トルク発生回転数に落ちる。4速で時速100km/hは約2400rpm。最終減速比は2.82とローギヤード。特筆すべきことはマニュアルシフトした時の反応の早さである。常人がMTを操作するより数段早い。コンパニオンディスクとデフマウント(そしてAT)がへたっていなければシフトショックも少ない。

サスペンション・デフ・ブレーキ‥乗りごこちは不快なほど固くもなく、揺り返しが来るほどブカブカでもなく、しっとりしなやかでノイズも小さい。リヤサスペンションのハイトコントロールのお陰かピッチングも小さい。ただし、このレベライザーシステムの弱点を指摘する声もある。ブレーキはローターも削って車を止めるタイプなのでパッドと同じようにローターにも寿命があるしフロントホイールはブレーキダストで結構汚れる。ASRのコントロールはすばらしい。リヤタイヤのホイルスピン/スライドが発生してその0.2秒後に私がアクセルを戻すより先に車が制御する。しかもその制御が最小限である。この足周りが誰が乗っても速い車に仕上げている。コーナリングの真価を味わいたいなら、apex手前からアクセルオンすることだ。ギリギリの車速でブレーキを残して侵入し、充分な荷重移動が起きてクリッピングポイントに達する直前当たりからASRを信じてアクセルペダルをぐっと踏んでみればいい。テールを張り出した絶妙の姿勢で500Eは回っていく。もしタイヤをサイズアップ/インチアップしていた場合には少し限界があがり操縦性(あるいは味)が変わっていることに気付く。多くの人にはタイヤは標準サイズで充分。

ボディ剛性‥剛性感は最新のクルマと比較してもかなりある。キャビンはがっちり頑丈でびくともしない、鋼そのものの質が違うのではないかとさえ思える出来映えだ。「W124」に重いV8を積んだということで心配する向きもあるが、そもそもW124のシャーシそのまんまに5リッターエンジンを乗せたわけではないし、余裕がそれほどあるわけではないが不足もない。ただし、衝突時のクラッシャブルゾーンは他のミディアム/Eクラスより確実に小さくなっている。衝突した相手が自車よりも軽い場合、殺傷能力は大きい。クルマに乗る時あるいは降りた時の、ドアを閉めたその瞬間の感動はこのクルマ以外では味わえない。

ハンドリング・高速安定性‥強めのトーインとネガティブキャンバー、そしてもちろん5リッターエンジンのお陰で高速道路ではこれぞ本物という走りが堪能できる。鼻歌を謳いながらでもとんでもない速度で直進する。200km/hオーバーの片手運転さえ容易だ。速度が増すほどにフロントの接地感が増す。フロントスポイラーとアンダーカバーは相当効いている。いわゆる「スポーツカー」と同じようにGに比例してロールする。インチアップ、ワイド化、ハイグリップ化すると速くはなるかも知れないがオリジナルが持っていた味が失われる。前後重量バランスは55:45。フロントトレッドを広げたのはハンドリングに効いているのだろう。意図的に抑制して走らないと周囲から白い目で見られる。BMWとの紳士協定のため最高速度を250km/hに制限しており実際にその速度でリミッターが作動する上、最終減速比のせいでスピードリミッターを解除しても4速6000回転(レッドゾーン、レブリミッターは6250rpm)で260km/h止まり。実速300km/hオーバーの車も珍しくなくなってしまった現状では(安全のためにも)速さは競わない方がいいし実際に勝てない。500E/E500より速い車は沢山存在する。限られた条件下では“スポーツカー”“チューンドカー”に優るが、そういうことを競うクルマでは(もはや)無いだろう。

室内装備・操作系‥椰子繊維と二重のスプリングが入ったシートは秀逸。こんなシートを標準で作る自動車メーカーはMB自身を含めて今後二度と現れないかもしれない。電動シートのメモリーが2ポジションある。サイドブレーキは足踏み式。ライトのスイッチが私の体格ではちょっと遠い。速度上昇に伴ってオーディオのボリュームが勝手に上がっていく(つまりオーディオ裏の配線から車速パルスがとれる)が、車内は静かなのでかえって気になる。助手席エアバッグのためにグローブボックスはない。伝統のATシフトゲートは本当に良くできている。キャビンの広さやトランクルームは個人使用に不満は全く無い。大型の旅行用トランクを二つ積んでまだ荷物が入る。フロントとリヤシートのセンターにそれぞれ物入れがある。純正オーディオ(Becker)はリモコン付き。